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外観は至って平凡な作りの中層マンション、
そのとあるフラットに顔を揃えた4人の男性陣、これありて。
歳の頃はさほど離れちゃあいない、無理なく同年代でくくれる面々であり、
しかもどの殿方も、それぞれ個性的ですこぶるつきに美男揃い。
無理から連行されたわけじゃあない彼らは、お互いをようよう知ってもいる顔馴染み同士で、
それぞれの所属が 正義の徒と裏社会の雄という肩書なり看板なりを掲げた、
“武装探偵社”と “ポートマフィア”という 真っ向から敵対していよう組織同士。
しかもそれぞれのエース格、
物理or異能によるという差こそあれ、戦場における前衛筆頭同士を含むというから、
揮発性も高いだろうアブナイ顔ぶれが一堂に会している格好…ではあるのだが。
とはいえ、実はここだけの話
ここ数年ほど、此処ヨコハマの何処かに眠るという 白紙の文学書とやらを狙う巨悪が
警察や公安組織はもとより、裏社会も手を焼くほどの巧妙さで頻繁に暗躍しており。
一応は実力を評価してだろう、探偵社とマフィア双方へのちょっかい掛けも過激で過酷。
そこで、共闘という形を取った上で難敵を幾つか叩き潰して以来、
トップにあたろう社長と首領双方の認可の下、停戦状態を取っている彼らであり。
そうは言っても掲げる信念の差異もあり、
何でもない平生ほど 剣突食らわせんとばかりの小競り合いになったり睨み合いもするけれど、
その実、気の置けぬ間柄という何とも平和な関係を築いている面子もおり。
各々 幹部や上級構成員であるがため
錯綜した事態や手ごわい敵の待つ、極めて重篤な修羅場に於ける先鋒担当の この面々もまた、
すぐの前日に対処案件先で鉢合わせては、
『こんの芝刈り機が、邪魔をするなら容赦しないぞっ。』
『何を、今日こそはその忌々しい毛並みを刈り取って 膝下に敷いて踏みつけてくれるっ。』
などと、喉が裂けよう裂帛の怒号で罵り合った…とは到底思えぬほどの変貌ぶり、
非番の日だからとの切り替えもすがすがしく、
そこいらに山ほど闊歩していよう若者らの如く
一般人を装って待ち合わせをし、和気藹々と会話を交わしたり寛いでいたりする。
だというに
そこまでの間柄なればこそ違和感満載の睨み合いが展開されている ややこしさなわけで。
異能無効化というチ―トな異能を操るのみならず、
若さに見合わぬ蓄積と慧眼もて、どんな土壇場でもそこから脱す術を寸瞬で繰り出せる奇才策士、
元はマフィアの人間でもある包帯まみれの美丈夫様、太宰治氏を、
黒ずくめの痩躯もお馴染み、元は部下だった芥川が
裏切者へと対するかのよに それは険しい顔になって鋭く睨みつける図…という、
居合わせた4人以外の人目がない場だからこそ “何でまた?”という状況になっており。
確かに、という言いようも何だが、
数年ほど前に唐突に失踪した太宰は、育成途中だった部下の彼にも何も告げずに逐電。
頑迷で手を焼く素材ではあったが それでも自ら貧民街に出向いて連れて来た存在だのに、
生きる意味をやろうと約したはずなのに、
それを呆気なくも捨てて行ったとの恨み骨髄だった芥川だが
そこいらの確執、とうに解けて和解済み。それどころか。
その気性から褒めては伸びなかろうと敢えてキツク当たっていたが、実は実は
なんて刺激的な存在だろうかとの期待が嵩じて、いっそ可愛がりたかったほどだったけど、
限度が判らぬこっちも不器用者だったのでのあの態度だったと、
その辺りの葛藤は
他のお話でも たんと書いておりますので今回は割愛しますが。
「え〜〜っ?
打って変わって そりゃあ仲睦まじい間柄になったってところが肝心なのに?」 (こらこら、太宰さん。)
だっていうのに何でまた、そんな親の仇に相対するみたいな顔で
和解したはずの敬愛する師を忌々し気に睨んでいる彼なのか。
太宰とは同僚であろうはずの虎の少年までもが
実は睦まじい間柄だからとはいえ
マフィアの看板、素敵帽子の幹部殿の傍らに立ち、
太宰からの楯になって庇っている立ち位置なのも微妙に不自然。
喧嘩友達でありながらもどこかで信頼し合ってもいる
そんな元双黒の二人だってのは 白と黒の部下二人も重々承知のはずで。
当人同士が いやいやいやそんな評価は迷惑と言えば言うほど
“またまたぁ♪”と笑って受け入れないような把握をしているものが、
何でまた駆け込んで来たそのまま、大事な兄人様を強引に引き剥がしたのかといやぁ。
……って、相変わらず くどくってすいません。(笑)
いまだ その両腕が白地に黒い縞の入った虎仕様なまま、
同僚であるはずの太宰へと 眦吊り上げ剣呑な顔をする敦くんがそのまま吠えての曰く、
「中也さんと芥川が離れてる状態で触るなんて、そんな危険なこと辞めてくださいっ!」
「敦くん、いろいろすっ飛ばしてないかい?」
いきなり現れたその上でのこの発言。
勘のいい太宰としては、何を言いたい少年かなんて判ってはいるけれど、
いくら一刻をも争う事態だったからといっても 説得の語彙まで端折るなんてと、
随分と虫食い状態な物言いだったのへ
ついのこととて ちょっと待ちたまえという物言いを放った太宰のすぐ手前、
「倍は違おう背の高さで威圧されようと、ってのは言いすぎだ、ゴラァ 」
先程の先着組の会話をどうやってだか聞いたらしい反発を吐く黒獣の君。
(盗聴器はなかろうから、先んじて事情だけでもと 相手のスマホへ連絡しかかってでもいたものか)
こちらもこちらで 日頃の芥川ならまずはしなかろう乱暴が過ぎる口利きだし、
しかもそれを浴びせたのが師である太宰。
可愛い愛弟子の暴言だってのに、
「え〜、だって結構身長差あるよ?君と私。
今だって目が回ってない? 慣れない目線の高さなんでしょう?中也。」
もう既に このややこしい事態を把握済みらしい冷静さも忌々しいか、
無駄に利発な太宰を睨み上げた“芥川”、
それへの応酬をしかかって くわっと口を開いたそのまんま、
「…っ、げほっげほこほっ。」
「……大丈夫かい?中也。」
いきなり大きな声出すからだよ、芥川くんの声帯はデリケートなんだ。
一旦 腹の底で力んでからでないと怒鳴ったりなんて…と、余計な忠告差し上げる太宰へ向けて、
「だあ、うるせぇよっ 」
それでなくとも腹の立つ相手からのお言葉、
言われなくとも知っていることと、ムカッと来たそのまま 言い返した中也だったものの。
シルクのフリフリ、ジャボタイ辺りを手のひらで押さえつつの罵声は
途中で再びの咳き込みに無情にも飲まれており。
此処に樋口さんがいたならば 大変だ〜と背中をさすってくれたかもしれないが、
それ以前に…きっと目を回していることだろう級で
なかなかに度を超えた 柄の悪さを発揮している漆黒の覇者殿だからややこしく。
そんな二人を眺めやる、敦と 芥川 in 中也の方は方で、
「う〜ん。何でだろう。
事情に気づいたの一番最後なはずの太宰さんが一番順応してる。」
とりあえずと乱入しただけ、まだ何も具体的な話はしてないのにねぇと、
こっちは相当混乱しまくったのに、なんでどうしてと腑に落ちない敦が小首を傾げれば、
「当然だ。臨機応変が利かねば、乱戦状態下での即妙な采配は執れぬ。」
我がことみたいに胸を張って褒めたたえているのが、
中身は芥川なので通常運転じゃあるものの、
きりりと冴えたそのお顔が中也の顔、
賛辞を紡いでいる声も中也の声だというのが、敦には違和感 物凄く。
「その四角い口調のせいで、
ああ中也さんじゃないんだって即座に判別できるけどさ。」
それでもやっぱりその姿と声で太宰さんを讃える中也さんってのは
凄んごく飲み込みにくいんだけどと、
大好きなお顔を相手に、苦手な何かでも見るかのように しょっぱそうな顔になるのが判りやすい。
そんなやり取りが聞こえたか、
「何の不思議があるものか。」
愛しい愛しい黒髪の教え子くんとは似ても似つかぬ風貌になっているというに、
愛の力は素晴らしいもので あっさり?見抜けた恐ろしさを発揮した太宰せんせえはと言えば、
「中也にしては含羞みの気配が端々に滲んでいたからね。」
ヒロインを前に花がほころぶような甘い微笑みを浮かべたものだから、
「〜〜〜っ!/////////」
「ああ?」
「はい?」
甘くたわめられた双眸からの眼差しという直撃を受けた芥川 in 中也が真っ赤になるわ、
そんな彼らの間に立ってた 中也 in 芥川と虎の子くんが
それぞれなりの “何言ってるのだか”というよなお声を上げたのが、ままお約束だったりし。
to be continued.(19.09.17.〜)
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*今日は“天使の日”だそうなので、
もうちょっと書き溜めようか迷いましたがUPしました。
でも、ウチの敦くんは
女子Ver.でもあんまり天使感はないような…。(ごめんなさい)

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